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【アフリカ映画案内】

デザート・フラワー

『デザート・フラワー』

127分 ドイツ/オーストリア/フランス 2009年 カラー
監督・脚本:シェリー・ホーマン
製作:ピーター・ヘルマン
原作・監修:ワリス・ディリー
キャスト ワリス:リヤ・カベデ、マリリン:サリー・ホーキンス、ドナルドソン:ティモシー・スポール 他
12月25日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


 “ソマリアの遊牧民から世界のトップモデルに!”とセンセーショナルに登場し、世界中でベストセラーとなったワリス・ディリーの自伝『砂漠の女 ディリー』が10年の時を経て、ついに映画化された。

 遊牧民の娘ワリスは、13歳の時に父の命で、多くの婚資と引き換えに年老いた男と結婚させられそうになり、家を飛び出し砂漠を歩いて逃げる。首都モガディシオの祖母の元へ転がり込んだ後、ロンドンに渡りソマリア大使館の使用人となるが、バーレ政権崩壊により大使館は閉鎖、英語も覚束ないワリスはファーストフードの店員として日々を生きていた。だが一流カメラマンのドナルドソンにその美しさを見出されたことで運命が一転、またたく間に世界のトップモデルとなる。だが、華やかな活躍の影で、幼い頃に受けた割礼の傷に苦しんでおり…。

 まずはエチオピア出身の現役スーパーモデルでもある主演のリヤ・ケベデの気高い美しさに圧倒される。“アフリカの角”の美女の典型であり「有色人種初のエスティローダー・モデル」なるタイトルも持つ。次々にモードファッションを着こなしキャットウォークを闊歩するシーンにはため息の連続で、彼女を見るためならDVD化を待たず、大画面で鑑賞できる劇場に足を運ぶのが正解だろう。

 だが単純なシンデレラ・ストーリーを期待して見に行くと、予想通りの前半のあと、急速にFGM(女性器切除)にフォーカスしていく後半部分に驚くかもしれない。一つの作品の中で、ハリウッド風の成功物語と、ユニセフ的な啓蒙映画がせめぎ合っている印象だ。それが新鮮と映るか、どちらも中途半端と映るかは好みが分かれるところだろう。

 本作は、実は書籍のヒットの数年後にエルトン・ジョンにより映画化権が取得されたが、彼の会社とワリスとの間では内容の合意に至らなかったという。現在のプロデューサーも、「ワリスと最初から意見が一致した訳ではない」と述べており、この作品をただのシンデレラ・ストーリーには終わらせないというワリスの強い意志が伺える。

 それにしてもワリス自身のインタビュービデオや、漏れ聞こえてくる彼女の声は、アフリカへの愛や誇りに満ちているが、映画の中でのアフリカは残念ながら「唾棄すべき因習をいまだ抱えるどうしようもない後進大陸」にしか見えない。そもそもアフリカの描かれ方が云々という以前に、問答無用の100%の悪が登場しては物語が薄っぺらになるではないか!とも思うが、FGMという映画のテーマ上、致し方のないことなのだろうか。いつしか、アフリカへの愛が、特典映像やインタビューなど周辺情報でではなく、映画本編にきちんと書き込まれる日が来ればと思う。

by 吉田未穂

DoDoWorld 2011年3月号掲載「アフリカを観る」に加筆修正