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【アフリカ映画案内】

ルムンバの叫び

アフリカの真の独立を夢見た男

『ルムンバの叫び』

115分 フランス語・日本語吹き替え/字幕

監督・脚本 ラウル・ペック
キャスト エリック・エブアニー、アレックス・デスカス、マカ・コット
製作国 フランス・ベルギー・ドイツ・ハイチ
公開 2000年5月
DVD発売 2007年2月
販売元 エスピーオー


2010年は、コンゴ民主共和国が1960年に独立してから(当時はコンゴ共和国)50年の節目の年である。本作は、このコンゴの初代首相パトリス・ルムンバを描いたもの。ベルギーからの独立に大きな役割を果たし36歳の若さで首相に選ばれるも、就任二ヶ月で暗殺された伝説の首相。理想主義的にすぎると批判も受けつつ、今なおカリスマ指導者として記憶されている。ラウル・ペック監督からアフリカの潰えた理想に捧げられた渾身の一作。

ラウル・ペックは、以前にもルムンバのドキュメンタリーを作っている。自身はハイチ出身だが、両親の転勤に伴い(独立直後、行政機構などではベルギー人の後任としてハイチなどから人材を登用した)コンゴで少年時代を過ごしている。本作の次にはルワンダ虐殺を描いた『四月の残像』を製作しており、大湖地方を絶えず見つめてきた監督でもある。本作は、そんな監督のルムンバ熱があふれ出た作品で、コンゴの真の独立を実現させようとルムンバがもがき格闘する過程が描かれている。

物語は夕焼けの美しいサバンナで、屈強な白人傭兵たち白い大きな包みを燃やし、化学薬品で溶かしている場面ではじまる。彼らがこの世からその痕跡を完全に消し去ってしまいたかったもの、それがこの物語の主人公ルムンバだ。郵便局員であったルムンバ(エリック・アブアニー)は、弁舌の才を買われてビール会社のセールスマンになるが、本業の傍ら政治家として頭角を表し、独立を求める勢力の中心的存在となっていく。1960年6月30日、コンゴはついに独立を果たし、ルムンバは初代首相となる。しかし、名ばかりの独立しか与える気のないベルギーは、圧力に屈しないルムンバを危険人物とみなし排除へと向かう。ベルギーの後押しするカタンガ州の反体制派、鉱産資源を狙うアメリカ、その支援をうけたモブツ参謀総長(当時)、そして外国勢力を恐れるカサブブ大統領などそれぞれの思惑が交錯する中、ルムンバは逮捕され、極秘裏に処刑されてしまう。

イントロでは植民地時代の白黒写真が次々に繰り出され、次第に現代のカラー写真がまじっていくが、写真の色は異なれど写された社会に大差はなく、上座に座っているのが白人からモブツに変わっただけ、という強烈な皮肉で物語の幕が開く。本編でも皮肉に満ちたジャブが次々と繰り出されるが、ルムンバが最初に逮捕されるシーンも重い一撃だ。“民主主義体制を欺瞞と圧政の道具としてはならぬ”とボードワン国王のラジオ演説が響く街角に、公安軍のジープが乗り付ける。民衆に独立を説いて回るルムンバを捕らえるためだ。ラジオの声はいつしか消えて、代わりに人々の怒号が飛び交う中、ルムンバは連行されていく。

監督のルムンバ熱のあまりか、細部まで再現されているのも面白い。リアルタイムを知る由もない私ですら見覚えのある愛用のメガネ、逮捕時の開襟シャツ、連行され口に詰め物をされる場面、それにカサブブ(マカ・コット)はおろか若き日のボードワン国王まで、よくも似せたものだと感心してしまう。モブツ役(アレックス・デスカス)は少々格好良すぎるかもしれないが。

そして、監督がどうしても撮りたかったであろう(と私が勝手に推測する)シーンは、やはり独立記念式典だろう。国王が「今日のコンゴは、祖父レオポルド二世とベルギーのおかげ」と述べると、カサブブ大統領が「今まで保護して下さった陛下」と応える。だが、次に登壇したルムンバは大胆にも「独立は闘いによって勝ち取られたことを忘れはしない」と語り始める。会場はどよめき、青ざめる若き国王に、慌てる大統領。「植民地下の圧政を耐え忍び、同胞の犠牲の上に独立を獲得した」という勝利宣言にも似た演説に、会場の聴衆からだけでなく、ラジオ中継を聴くコンゴ国中の民衆から拍手喝采が送られた。この演説のためにルムンバは生まれ、そして同時にこの演説のために命を落とすことになった。その歴史的瞬間が期待を裏切らず鮮やかに描かれる。

政治家というよりは革命家のように生き、理想に向かって直進するあまり首相就任二ヶ月という異例の速さで闇に葬り去られたルムンバ。劇中で彼自身「生まれるのが50年早かった」と述べている。彼の死からほぼ50年が経つ。時代は変われど、彼の理想は依然として理想のままであり、スクリーンに向かって拍手喝采を送るしかない現実が、本作が熱く支持され続けている理由の一つなのかもしれない。

by 吉田未穂

DoDoWorld2010年1月号掲載「アフリカを観る」に加筆修正