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おじいさんと草原の小学校
The First Grader

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103分 イギリス 2010年 カラー 監督:ジャスティン・チャドウィック 脚本:アン・ピーコック 製作:リチャード・ハーディング、サム・フォイアー、デヴィッド・M・トンプソン

キャスト ジェーン:ナオミ・ハリス、マルゲ:オリヴァー・ムシラ・リトンド、チャールズ:トニー・キコロギ 他

マルゲおじいさんを覚えているだろうか?数年前「84歳の小学一年生」として世界中で有名になったケニアの老人だ。あの愛すべきマルゲが映画となって戻ってきた。

2003年、ケニア政府は初等教育を無償化、「国民誰もが無料で小学校へ行ける」という宣伝を額面通り受け取ったマルゲは小学校の門を叩く。マウマウ団戦士として独立闘争に青春を捧げ教育の機会を逸したマルゲには文字が読みたいという悲願があった。彼の熱意が校長を動かし晴れて小学生になる。だが「世界最年長の小学生」という話題に世界中からメディアが押し寄せ、学校は大混乱、ついには政治家まで巻き込む騒動となり、マルゲは退校を迫られる…。

主演は、監督がモーガン・フリーマンを蹴ってまで選んだというケニアの元TVキャスター、オリヴァー・リトンド。アフリカのおじいさんというより、ナイロビのビル街を闊歩するエグゼクティブといった佇まいや、小学校へ行く必要性を微塵も感じさせない立派な英語で話される台詞に、当時の報道で本物のマルゲに萌えた人ならば相当な違和感を覚えるだろう。だが、黒板を見つめる輝く眼差しや、過去の痛みを覆い隠す哀切な表情に物語が進むにつれて引き込まれ、こういうマルゲも良いのかもと納得させられる。

マルゲは文字を学び、子どもたちはマルゲからウフル(自由)のために戦った歴史を学ぶ。校長先生が信念を貫いた為に“トゥルカナ送り”になってしまうと、子どもたちがまるでマルゲのスピリッツを受け継いだように、靴や雑貨を武器にかわいらしい“蜂起”をするさまは感動的ですらある。一方、邦題から想起されるハートウォーミングな物語を予想して見に行った私は、独立闘争時代の過酷な描写に椅子からずり落ちそうになった。英植民地軍による集落焼き討ちや目を覆いたくなるような拷問、眼前での家族射殺など、英保守系紙が本作を感情的に酷評していたのもなるほどの圧政の赤裸裸な描写だ。

“アフリカのちょっといい話”といった雰囲気の軽やかな脚本が、この、映像で再現されたマルゲの過去の重さを消化しきれていない感は残るが、これほどの人生を背負いながら、なお子どもと机を並べ、学ぶ喜びに弾ける笑みを見せるマルゲの姿に、アフリカのあの世代の力強さと骨太な魅力を感じずにはいられない。どんな過酷な運命に襲われようとも、絶望するのはまだ早いかもしれないと思わせてくれる一本である。

by 吉田未穂

DoDoWorld2011年9月号掲載「アフリカを観る」